天国と地獄
 

2023年5月30日更新

第222回 日本の危機について <その8>

数回、昨年末亡くなった父親について述べさせていただきました。
今回はその前に連載していた「現代の危機」についての話に戻したいと思います。

現在、私たちが生きているこの21世紀前半という時代の中で一番大切だとも言える、
地政学的あるいは世界の大きな国同士の関係において、
日本が今どういう立場に置かれそしてどういう方向に向かっているのかということを、
かなり大きな視点から見てみたいと思います。
こういう話を歴史的な観点からは日本人はしてきていないように思いますので、
ここで皆さんに問題提起する意味もあります。

現在、アメリカと中国が「新しい冷戦」という状況に突入していますが、
1990年以前は「米ソ冷戦」がありました。
太平洋戦争後、アメリカとソ連という核兵器を保有する二つの大国は、
核戦争寸前まで行ったこともありました。
キューバ危機や朝鮮戦争、ベトナム戦争、そこには中国の影(当時は中共と言っていました)
もありましたが、アメリカとソ連の代理戦争という形で世界は緊張をはらんできました。

ひるがえって現在に戻りますと、
ロシアによるウクライナ侵攻という非常に重大な問題が生じましたが、
よく見るとロシアが世界の超大国としての地位からすでに滑り落ちていることがわかります。
今回の戦争は、その証拠をまざまざと見せつけたわけです。

ウクライナには、私も一度だけボランティア活動の一環として10年ほど前に訪れたことがあります。
私は「一般社団法人 世界の子供たちのために」通称「CheFuKo(チェフコ)」
というボランティア団体の最高顧問をしています。
チェルノブイリの「Che」、福島の「Fu」、そして子供の「Ko」、
それらの頭文字を合わせて「CheFuKo(チェフコ)」と私が名付けました。

あの2011年の福島第一原発事故のあと、
同じく原発事故を経験したチェルノブイリの人たちと子供たちにも
私たちは目を向けなければいけないと思い、
福島とチェルノブイリの子供たちに焦点を当て、
彼らのために少しでも何かできないかということで今から10年ほど前にウクライナを訪れたのです。
首都のキーウから入り、そこから西へ約100キロのところにある「ジトーミル」という街まで行きました。
今、戦時下にあってミサイル攻撃を受けたりしていますが、
そこまで行って子供たちと会ってきたのです。非常に素晴らしい思い出です。

ただ、こう言っては失礼かもしれませんが、ウクライナという国はなにしろ貧しい国でした。
当時の首都キーウの空港は、電気もところどころしか点いていませんでした。
随分前にソ連が崩壊した直後のモスクワ空港を訪れた時も、空港の電気はほとんど点いておらず、
レストランでランチを頼んだ際に出てきたハムは、まるで「ハムのミイラ」のようでした。
もう腐る寸前で、恐らく冷蔵庫にも入っておらず食べたら病気になりそうなひどい品物でした。
そして、10年前に訪れたウクライナはそのソ連の状況とほぼ一緒でした。
空港の両替所もあるにはあるのですが、首都のある国際空港のものとは思えないくらいで、
30年前に行ったミャンマーの空港より活気がない感じでした。
物価は日本の10分の1程度で、今でもおそらく大卒の初任給が3万円位ではないでしょうか。

本当に良い思い出だったのは、小学校、中学校を見学させてもらった時のことです。
学校をあげて大歓迎してくれました。
子供たちと、本当に親しくなることができました。
小学校の体育館に何百人もの子供たちが集まってくれて、お菓子や文房具などをあげたのです。
その時の子供たちの発するエネルギーや明るさ、
そして「福島は大丈夫なのか?」と心配してくれる優しさに、心打たれました。
国はこんなに貧しいのに、その子供たちの人間性の深さに驚嘆し、一生の思い出になりました。
その時私は、「この子供たちを一生支援しよう」と決意したのです。

 
日本の写真を興味深そうに見つめるウクライナの子供たち

ウクライナの子供たちはあまりにも元気で、それに比べて日本の子供たちは元気がなくなったなぁ
と思いながら帰って来たのですが、
その後、そこにいた子の8割は放射能障害を持った子供たちで、
走れない、あるいは心臓障害、脳の血管の障害を持っていたということを聞きました。
現地では、まったくそのようには見えませんでした。
このようにチェルノブイリ原発の後遺症は、今でもまだ残っているのです。
そのウクライナがロシアによってここまでひどい目に遭わされるとは、思っても見ませんでした。

いずれにしても、今回のロシアによるウクライナ侵攻というのは、
「ロシアがもう巨大な大国ではなくなった」ということを明らかにしました。
というのも、ウクライナは私が驚いたように貧しい国なのに、
そんな国相手に1年かかっても決着が付かないのです。
これが仮にアメリカ軍であれば、2週間で片を付けたでしょう。
イラク戦争がそうでしたが、あっという間でしたよね。

ですから、現在の世界の巨大な覇権国家はまだアメリカで、
それに食いついているのが中国であるという状態です。
これは、紛れもない事実です。
私たちは今後の日本という国の運命を考える時に、このことをよく考えなければいけません。
つまり、日本が米中のはざまにいることを悩まなければならないのです。
日本は今、アメリカ側にべったりくっついていますが、
もし台湾有事が起きたり、日本で巨大災害(たとえば東南海地震という巨大地震が起きた場合、
その被害は東日本大震災の何十倍だと言われています)が起きたりした場合、
この日本はどうなるのでしょうか。
もともと日本は、以前から私が申し上げているように政府の借金がすさまじい額に達しており、
しかも経済力がどんどん落ちてきている状態です。

先日、日本経済の現場の声を一番よく知っている人にインタビューしました。
彼は、こう言っていました。
「日本は、どんどん経済力が落ちてきている」「円安も進んできている」
そして「財政もかなり危ない」と。
日銀は、金利が上昇すると債務超過になります。
当座預金に500兆もあり、この当座預金は銀行のお金を預かっているだけですが、
金利が上がればこれに利息をつけなければなりません。
もし、この金利が1%上がるとすると、500兆の1%は5兆ですね。
これを、日銀のお金から出さなければならないのです。
日銀の自己資本は10兆くらいしかありませんから、
2年で自己資本を食い潰して債務超過になってしまうわけです。

ましてや金利が2%上がれば、1年で債務超過に陥ってしまいます。
かつてスイスの中央銀行が債務超過になったことがありましたが、
スイスは財政が健全でしたので何ともありませんでした。
しかし日本は、GDP比で世界最大規模の借金を背負っています。
GDP比では、国民の8割が生きるか死ぬかどうかという飢餓状態にある
ベネズエラの次に悪い状態で、先進国の中ではあり得ない260%超です。

そのような借金だらけの国(日本)の中央銀行が債務超過になった場合、
「とんでもないことが起きる」というのは私も彼と共通する見解です。
「では、いったい為替はいくらになりますか? 200円ですよね」と彼に確認すると、
「浅井さん、冗談言っては困るよ。400円だよ」とはっきりした返答がありました。
1ドル=400円です! 今の3倍です。
海外から輸入してくる物価も3倍となる……。もう、ハイパーインフレですね。

日本が米中の間で今後生き残って行くには、大変な問題を内部に抱えています。
それだけでなく、アメリカはまだまだ覇権大国で、沖縄には世界最大規模の基地があり、
核兵器は今のところはありませんが、いつでも持ち込めるような状態です。
日本中のあちこちに米軍基地があり、核戦争における司令部や「C³I(シーキューブドアイ)」
という私が以前新聞社時代に調べていた核戦争をやるための指揮通信網、
コンピューター、諜報、相手の電波盗聴や諜報、それらを全て合わせた巨大なシステム、
その大きなものが日本にあるのです。ということは、中国、ロシア、北朝鮮の
核攻撃の対象になりそうなものが日本にはたくさんあるということです。

ロシア、中国、北朝鮮という核兵器をもつ国々に囲まれている日本は、
地政学的に言うと世界で最も危険な場所にある国の一つである。
そして、ウクライナの子供たちをこれ以上辛い目に遭わせたくない、
遭わせないというのは我々の思いであり、使命である。
(2013年 ウクライナ・ジトーミルにて)