天国と地獄
 

2020年2月5日更新

第119回 自然の猛威(上)

 

先日、私がニュージーランドから帰国した直後に、ニュージーランド北島沖の火山島、
ホワイト島(英語名:ホワイトアイランド)が突然噴火し、
観光ツアーで訪れていた豪華客船の一部乗客が巻き込まれ、
十数人が亡くなるという大惨事が起きました。
日本と違いニュージーランドの場合、観測体制の甘さももちろんあったと思います。
しかし、日本でも2014年に御嶽山が突然噴火し、
60人を超える登山客が死亡または行方不明という災害が起きました。
こうした惨事が起こると、大自然というのは予測不能で本当に恐ろしいものだと痛感させられます。

さて、突然ですが皆さんは「4K」というものをご存知でしょうか。
ハイビジョン放送よりさらに高画質のテレビ放送で、S
私も自宅でBS放送の4Kを見ていますが、
最近ではそのさらに上の「8Kテレビ」も出始めました。
8Kは、テレビ本体も100~200万円とまだまだ高価で、
しかも8Kで放送される番組がまだほとんどありません。
つまり、ハイビジョンと8Kの中間にあるのが4Kで、
現実的に言えば現時点では最も高精細の映像がそれによって見られるわけですが、
その迫力は従来のテレビ放送とは全くの別物と言ってよいほどです。
皆さんも余裕がありましたら、ぜひ「BS4K」のNHKの番組を見てみて下さい。
他のTV番組ではやっていない、貴重かつ大迫力の番組を放映しています。

そのBS4K(NHK)の中で、「地球とは一体何なのか」をテーマとした番組を放送しています。
その中のある番組で、実にすごいことを言っていました。
それは、「地球というのは人間のために(あるいは人間に都合よく)できているわけではない」
ということです。私たちはよく地球のことを「母なる大地」と呼んでいます。
そういう「母のように優しい」面ももちろんあるにはあるのですが、
実は地球は生物をあっという間に虐殺したり絶滅させたりと、
本当に恐ろしい悪魔のような存在でもある、ということを言っていたのです。

その一例が冒頭で触れた火山です。
火山から出てくる物質は極めて猛毒だったりあるいは高温だったり、
はたまた日照を遮ったりします。
火山噴火というのはそれゆえ最も恐るべき「大災害」の一つに挙げられるのです。
大火山は世界中に点在しますが、その一つに「ラキ火山」というものがあります。
突然、ラキ火山と言われてもわからない方も多いかもしれません。
アイスランドにある大火山で、私は以前からこのラキ火山を
一生のうちに一度は見たいと思っていました。
2年前にようやく、ヘリをチャーターしてそのラキ火山をこの目でじかに見ることが出来ました。
ヘリコプターでどこまで飛んで行っても、眼下には延々と噴火口が続いているという、
「これが同じ地球上の景色か!?」と言うほどの絶景で、本当にすごいものでした。

ラキ火山は今から約240年前の1783年、フランス大革命の6年前に噴火しました。
アイスランドというのはグリーンランドにほど近い北極圏の国で、
フランスからはだいぶ遠いように思います。
しかし、この噴火がフランスの政治体制に甚大な影響を及ぼしたのです。
実際、その時のラキ火山の噴火はとんでもない威力で、
しかも噴火口が真っ直ぐにいくつも並んでいて、
次から次へとどんどん噴火していったといいます。
その時舞い上がった噴煙はすさまじい量で、火山灰がヨーロッパ全体を覆ってしまい、
数年間は太陽が一切見えない、昼間でも真っ暗という状態になったのです。
もともとヨーロッパは高緯度で寒い場所ですが、
それに加えて噴火の影響で日照が遮られたため大飢饉となり、
ヨーロッパ全体で餓死者が続出したのです。
その影響は全世界にまで広がり、ついには日本にまで影響が出たそうです。
さらに日本では、同じ年に浅間山も大噴火しました。
これが原因で、「天明の大飢饉」になっていくのです。

余談ですが、実はこの「ラキ火山-浅間山の噴火」という一連の天災が、
江戸幕府が潰れる遠因とも言われているのです。
噴火の影響で作物が育たず、飢饉が発生したことから、
幕藩体制が財政的にもおかしくなっていったのです。
天明の大飢饉では、ヨーロッパでのラキ火山同様、
餓死者がたくさん出てとんでもないことになりました。

話を戻しましょう。ラキ火山の噴火は、実はフランス大革命の本当の原因だと言われています。
つまり、フランス革命それ自体は色々な思想的な背景から起きたわけですが、
ただ単に「新たな政治思想の登場」の延長線上に起きたわけではないのです。
人間というものは他の動物と同様、満足に食べられているうちは文句を言わない生き物です。
つまり、経済が良好なら国に多少の問題(不正や汚職・怠慢など)があっても
概ね平和が保たれるわけです。しかし、ひとたび飢えに苦しむようになると人は豹変します。
不満の矛先を誰かに向けるようになるのですが、
それは往々にして国を統べる為政者に向けられがちです。
フランス革命とは、まさに人々の「飢え」が新しい政治思想の皮を
かぶって起きたものと考えられるわけです。
実は、今から十数年前に私がフランス大革命の遠因はラキ火山の噴火だと本で書いたところ、
「頭がおかしいんじゃないか?」というようなことを言われました。
しかし、これは今や世界の定説になっています。

こうした「国民が食えなくなれば国が転覆する」という事実は、
現代国家にも普遍的な法則として息づいています。
この法則は、逆に言えば「食わせさえすれば国民は黙る」ということですが、
今の日本で起きていることがまさにそれです。
現在安倍政権が皆の支持を集めているのは、
安倍さんがバラマキをして何とか国民を「食わせて」(あるいは贅沢をさせて)いるからです。
日銀に命令し、黒田日銀が「異次元金融緩和」という名のバズーカ砲をぶっ放し、
信じられないほどの低金利にして借金をしやすくし、
さらに株も不動産も買いまくらせて日銀に全部背負わせるという方法を用いて、
政府は財源を確保しつつ景気対策もやっているわけです。
そのおかげで国の借金はどんどん増えていますが、
辛うじてまだギリギリのところで日本の財政は持ちこたえています。
しかも幸いなことに世界的にも景気が良いため、
バラマキも実に効果的に作用して日本の景気も良いというわけです。
少子高齢化が進む中での好景気とあって、
若い人にとっては就職氷河期から一転してバブル期に並ぶくらいの人手不足となりました。
このように、今のところ概ね景気が良いため、日本では誰も文句を言わないのです。
米国でトランプ大統領がやっていることもこれと同じです。
「景気がよければ誰も文句を言わない」という訳です。
しかし、これがもし景気が悪化に転じ、飯を食えない人が激増したらもう大変です。
かつてのフランスのように、国民の反乱が起こるわけです。

日米だけではありません。
中国の習近平も当然それをよく知っています。
景気が今以上に悪くなったら、中国共産党もろとも自分の身も危なくなることは明らかなので、
手段を選ばず必死に景気を支えているのです。
結局は、米中貿易問題の合意もその文脈上にあります。
トランプは今年の大統領選を勝ち抜くため、習近平は政権基盤が危うくならないため、
いい塩梅で手打ちをして少し景気を良くしておこうというわけです。
ただ、こうして為政者が小手先の策を弄して何とかなるうちは、
まだかわいいものかもしれません。
ラキ火山の噴火に匹敵する天災がひとたび起きれば、
もう人間には手の施しようがないほど甚大な被害が出ます。
景気対策など何の意味も持たず、世界各国は内乱で政権転覆か、
あるいは他国に攻め入って富を奪うかという「地獄絵図」になることは確実です。
そして私たちは、それが起きていない今に感謝しつつ、
これからも起きないことをひたすら祈るほかはありません。

 

ニュージーランドでも、私は何度もヘリコプターで取材に飛んでいる。
自然の猛威の前では、人間は無力であることが多い。
              (2019年11月 ニュージーランドにて)