天国と地獄
 

2020年1月15日更新

第117回 忖度しない報道と独立国家としての矜持

 

皆さん、こんにちは。
昨年の話になりますが、毎日新聞に非常に面白い記事が載りました。
11月3日(日)の朝刊の一面『米軍、違反飛行横行』という記事です。
「米海兵隊岩国基地(山口県岩国市)所属の戦闘機部隊で、
重大事故につながりかねない規則違反が横行している実態が2日、
第1海兵航空団(沖縄県)の調査報告書で判明した。
手放しの操縦や飛行中の読書、ひげを整えながらの自撮りを含む。
部隊では空中接触が相次ぎ、昨年12月には高知県沖で6人が死亡・行方不明になる墜落に発展した。
安全軽視の運用が明らかになった」 と言うのです。
こういう記事をきちっと掲載する毎日新聞の姿勢は、非常に良いと私は思います。
この記事を読んでちょっと考えたのですが、私は新聞社時代に結構面白い経験を色々しているのです。

その中のひとつに、以前のコラムでも取り上げましたが、
私はアメリカの最高機密、たとえば核戦争司令部NORADの取材をしたりして、
その過程でアメリカ大使館および在日米軍司令部の広報と親しくなったのです。
広報自体は、実は横田基地にあるのです。
横田と言ってもわかりにくいかもしれませんが、東京から中央線に乗って新宿を過ぎ、
さらに中野、三鷹、吉祥寺を過ぎて立川に着き、立川から青梅線に乗り換えて
青梅に行く途中の福生(フッサ)という市に米軍の基地、横田基地があります。
そこは空軍の基地で、在日米軍司令部もその中にあるのです。
米軍には、陸軍、海軍、空軍、それから海兵隊と、4つの軍隊があります。
その全ての日本における総司令部が、横田基地にあるのです。
広報もそこにあるのですが、上記の説明でおわかりのとおり、都心から大分遠いのです。
車で行って渋滞に巻き込まれた日には、2時間半くらいかかってしまいます。
電車でも1時間以上かかります。

 
毎日新聞2019年11月3日付

そのため、東京都心にあるマスコミにとっては不便だろうということで、
都心にマスコミ向けの事務所があるのです。
東京の広尾からちょっと南に下ったところに「天現寺」という場所がありますが、
その高速道路脇に濃い茶色のとてもゴツいビルがあるのです。
それが、知る人ぞ知る米軍専用ホテル「ニュー山王ホテル」です。
そこには、一般の人は絶対に入れません。
海兵隊が守っていて、アメリカの治外法権なのです。
中で使用するのは、米ドルです。米軍の軍人や軍属が安く泊まれるのです。
その「ニュー山王ホテル」の地下に、MLO(ミリタリー・リエイゾン・オフィス)があります。
リエイゾンというのは、「連絡」という意味です。米軍の報道連絡事務所です。
そこに、私がNORADの取材をしたご縁で親しくなった女性がいました。
もうだいぶ前に亡くなりましたが、長いこと米軍の広報をやっていた中村ミチさんという女性です。
当時で60歳くらいだったでしょうか。私が30歳の時です。
もう一人はトヨシマ君といい、トヨシマ君は今でも元気でやっています。
私より若く、20代位に見えました。

前のコラムにも書きましたが、私が大阪写真部から東京写真部に移ってすぐ、
ペンタゴンからNORADの正式許可が下りたという連絡が来たのですが、
それを持って東京写真部長に「取材に行きたい」と言うと、
「写真部はとてもそんな金ないよ。だいたい本当にどこまで撮らせるかわからないだろう」
と言われ、拒否されたのです。
それを報告しにMLOに行った時の中村ミチさんの一言が、私の人生を変えたのです。
彼女は、「こんなにすごい取材許可なんて、見たことないわ! もったいないわよ。
あんた、自分のお金で自分で休みを取って行けばいいじゃない」と言うのです。
「そうだ!」と思い、すぐさまハイヤーで取って返し、当時の山本写真部長と必死に交渉しました。
「私のお金で、私の休暇で行きます! その代わり、版権(写真の権利)は私にください」と。
ついでに「文章の権利もください」と言ったら、
「お前が金を出すんだから、いいだろう」とあっさり許可されました。
今だったら、きっとダメだったことでしょう。
当時、毎日新聞はおおらかだったので、それでOKが出たのです。

その中村ミチさんと親しくなり色々話しているうちに、
私は日本とアメリカの関係において“あること”を感じていました。
それは、確かに日本は敗戦国でアメリカに負けたのですが、もう戦後70年経っているのです。
当時で戦後40年でした。
日本は、サンフランシスコ条約によって独立国になったにもかかわらず、
いまだに対等ではないのです。
特に日米安保条約の地位協定は酷くて、色々なところから話を聞くと、
たとえば当時、羽田を飛び立った旅客機は本当に狭いところしか飛べなかったのです。
当時は管制権は全て横田の在日米軍が持っていたのです。
日本の旅客機は、その残ったわずかなところを飛んでいたのです。
米軍は、やりたい放題なのです。

沖縄でも少女を暴行したりする事件が起こっていますよね。
もし、イギリスであんなことが起こったら、
イギリス国民は激怒して「米軍は出て行け!」という話になると思います。
何も行動に出ない日本はバカにされ、下に見られているのです。
そして何より、政府がだらしないのです。

というのも、その時私は、広報から以下のことを聞いて、大変驚きました。
アメリカ大使館および在日米軍は、
日本政府及び防衛省(当時は防衛庁か自衛隊)を気味が悪いと思っているのです。
どういうことかと言うと、
「こちらが何をやっても絶対に反論せず、
『はいはい、そうですか』『結構です。それで』という感じだ」と。
白人はそうではないのです。
相手があまりにもひどいことやちょっと考えられないことを言ってきた場合には
反論しますし、それで喧嘩になるのなら仕方がないと思うのです。
殴り合いではなく、言葉できちんと争う。
日本はそれをしないから、アメリカがどう思っているかというと
「コイツ等、何か企んでいるんじゃないのか?」と思うのです。「気味が悪い」と。
「だったら、もっと押さえ込もう」となるそうなのです。
私はその話を聞いて、ゾッとしました。
日本は戦争に負けただけではなく、プライドも失ったのかもしれません。
外交能力と言うか、交渉能力がゼロなのです。
明治の頃と一緒で、不平等条約なのです。

もっとすごい話をすると、
私はある時、夕刊左側の縦6段位のとても大きな写真を使った、
他社が「あっ」というような大特ダネをつかみました。
それは、ある人から聞いたこんな情報を元にしたものでした。
アメリカ軍のメインは横須賀で、横須賀に空母が入ります。
空母というのは、艦載機(かんさいき)をたくさん積んでいます。
戦闘機や給油機、偵察用の哨戒機とか種類が色々あるのですが、
仮に戦闘状態に入ってある海域に行ったとします。
その時に上記艦載機が降りられる空港が近くにないと、空母に降りるしかないのです。
戦闘機はすごくガソリンを使うので長く飛べません。
だから、遠くの飛行場まで行けないので空母に降りるしかないのです。
それがたとえ濃霧、土砂降り、強風の時でも、
それでも狭い空母に降りなければいけないのです。
降りられなかったら海に墜ちて死ぬのですから。
しかも、夜間だと何も見えず、空母の上の点しか見えないのです。
皆さんも成田空港とか羽田空港から見るとわかると思いますが、
着陸の時に夜は点だけですよね。
私も一度だけ空母に乗ったことがありますが、
空母なんて空港の大きさに比べたら、狭くて驚愕しました。
映画などに出てくると広いイメージですが、甲板なんて信じられないくらい狭いのです。
そこにいろいろな戦闘機がいて、爆弾や燃料を積んでいるのです。
もし着陸に失敗したら、全部吹き飛んで死んでしまうのです。
下手したら核兵器を積んでいるのですから、絶対失敗は許されません。
ですから、昼間はよいけれど夜間の場合、
一週間着陸していないと(訓練をしていないと)プロでも降りられないそうなのです。
そして、夜間の飛行訓練は厚木でやるのです(騒音問題で今はやっていないかもしれませんが)。
横須賀に入港した空母というのは、艦載機を厚木に降ろすのです。
ところが厚木で降ろしてずっと遊ばせていたら意味がないので、
厚木で飛行訓練をやるだけではなく、当時信じられない訓練をやったのです。
戦闘機が長野の山奥に飛んで行くのです。
しかもV字谷の谷より下の目の前のところスレスレを爆音を立てて2機で飛んで行くのです。
つまり、秘密の訓練をやっていたわけです。

もう、30年近く前のことでしょうか。
私はその情報を入手したので、伊那谷(伊那市)のさらに奥の「高遠」という
有名な桜の名所がありますが、そのまた奥のダムの上に4日間、張り込んだのです。
でも、なかなか来ない。空母はもう厚木に着いているというのに。
東京のデスクに電話をすると、「お前、忙しいんだから帰って来いよ!」と言われたのですが、
「いや、デスク、あと1日、申し訳ない、一生のお願いです! デスク、あと1日!」
と懇願しました。そしてそれが叶い、大スクープにつながったのです。
その日、午前中は飛んで来ませんでした。そして、午後3時くらいでしょうか。
4日間、ずっと同じ方向2,000m先くらいを見ているのですから、
だんだん頭がおかしくなってくるのです。
すると一瞬、2,000m~3,000m先に黒い点がカラスのようにフゥ~と出て来たのです。
「あれ? 何だろう?」と思いました。スーッと来るのです。
高度ではなく低い所なので、マッハでは飛べないのですが、
時速800㎞くらいで飛んで来るのです。
そして、点が2個になったのです。2機飛んで来るのです。「やった~!!」。
ただ難しいのが、今と違ってオートフォーカスではないですから、
直進してくる物体を300㎜の望遠レンズか何かで撮ると、ほとんどピントが合わないのです。
それでも命懸けで撮ったのですが、最後に頭上を通り越した瞬間、
すごい爆音がブゥワ~っとしました。
見たことがない、変な形をした電子偵察機と戦闘爆撃機の2機でした。
その2機がスレスレの状態で戦闘爆撃機2機が羽を傾けながらブゥワ~っと飛んで来たのです。
それから何編隊も来たのです。7回くらい来たでしょうか。
これは、毎日新聞の大スクープとなりました。
記事には「撮影 関喜良」と本名が出たので、後日他社に嫌な顔をされました。
読売新聞かどこかのカメラマンに、
「お前ぇよ、おれ、あの記事のためにデスクに半殺しの目に遭ったよ」などと言われました。

これは、米軍が無法なことをやっている一例です。
この飛行によって、そこにいる牛とか馬が驚き、
飛び跳ねて農民たちに危害を与えたり事故につながったりするのです。
さらに、高圧電線を切ってしまう事故まで起きているのです。
とてもひどい被害が出ているのです。
それなのに、政府はそれに対して何にも言えないのです。
安倍さんも結局のところ、トランプの言いなりではないですか。
人間、“親しき仲にも礼儀あり”です。

もう一つ話をしましょう。
那覇空港から、たとえば羽田に帰る、あるいは大阪方面に帰る際でもわかりますが、
とにかく北向きに飛んだ時に変なことが起きるのです。
離陸して1分くらいでしょうか、急にエンジンを絞るのです。
そして左に傾いて行くのです。
これは、本来ならば絶対にしてはいけないことなのです。
離陸してすぐにエンジンを絞ったら、下手したら墜落してしまいます。
では、そんな危険なことをするのはなぜか?
それは、右側に嘉手納基地があるからなのです。
嘉手納基地の戦闘機や輸送機がちょうどそのすぐ上を飛ぶので、
そこを避けるために日本の旅客機は一番危ないことをさせられているのです。
昔から日本のパイロットの間で大問題になっていたのです。
「そのうち墜ちるよ、1機」と。

私は20歳の時に6ヵ月間ヨーロッパを放浪しました。
お金がないので現地の大学には行けませんでしたが、語学学校に通いました。
その長い年月の後、仕事で海外のファンド会社のトップ達と
何度も厳しい交渉を重ねることになりましたが、
時には大喧嘩も英語でやるわけです。
私の英語はひどいものですが、交渉は出来ます。
だから、外国人を怖いとは思いません。
日本人以外の民族というのは、言うことはちゃんと言って、交渉して、最後に握手をするのです。
そういうことをしない民族は、
「気味が悪い奴らだ。何か企んでいるのではないか」と思われるのです。

一つのすごい例で言いましょう。
いまから40年ほど前、米ソは本当に核戦争をやるかもしれない状態にありました。
ただ、本土同士でやったらお互いに滅んでしまいますから、
なんと米ソはヨーロッパで核戦争をやろうとしていたのです。
ベルリンの壁を挟んで中距離ミサイルを打ち合おうと。
そうすれば、お互いの本土に届かないからいいだろうと。
ヨーロッパはたまったものではないですよね。
それで当時のイギリス首相のサッチャーは、
「もし、アメリカ軍が勝手にイギリスにあるアメリカ軍基地から
イギリスに通告することなく米軍機を飛ばして爆撃した場合、
イギリス陸軍はその基地を殲滅する」と言ったのです。
「全部殺す」と言ったのです。アメリカ軍を。
米英間には同盟があるにも関わらず、です。
同盟とは、本来そのようなものなのです。仲良くはするけど、
相手が勝手に自国の主権を侵害した場合、これを絶対に許さない。
命を懸けて戦うと。これが本来の同盟なのです。
日本はアメリカの同盟国ではなく、奴隷なのです。
それを日本人はわかっていないし、日本国政府もわかっていない。
これじゃあダメです。いつまでたっても日本はアメリカの奴隷です。
だから中国にもなめられるのです。
「どうせ、あいつは奴隷だろう」「アメリカの犬だろう」「自分じゃ何もできないだろう」と。
情けない限りです。
私はやっぱり日本はちゃんと独立国家にならないといけないと思います。

  日本はアメリカに対して遠慮や忖度をし続けた結果、
足元を見られたり、バカにされたり、
要求を上げられたりしている。
ハッキリとものを言い、
必要があれば争うことも必要ではないだろうか
(2019年10月 シンガポールにて)