天国と地獄
 

2019年4月15日更新

第90回 ついに緊迫してきたベネズエラ情勢<その2>

 

下の写真は、ベネズエラのカラカスの市内で男性があまりにもお腹がすいて
ゴミ捨て場から物を拾って食べている様子です。
浮浪者などではなく、普通の人です。
ベネズエラのゴミ捨て場の残飯ですから腐っているような物だと思うのですが、
それを食べざるを得ないほど食べ物に飢えている。
まるで“生き地獄”であるということが、この写真からわかると思います。

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  あまりのひもじさから
思わずゴミ置き場から
残飯を拾って食べる男性。
ハイパーインフレと
国家の経済政策の失敗により、
スーパーへ行ってもほとんど食べ物がない。

前回も述べましたように、野党のグアイド国会議長がマドゥロ大統領を認めないと言い、
それをアメリカをはじめ世界中で50ヵ国以上の国々が支援し始めています。
ベネズエラ国内でも、若者を中心に多くの人々が首都・カラカスで前代未聞のデモを行ないました。
それに対して軍が出動し、棍棒で殴ったり発砲までします。
それに負けじと、国民のために、国の将来のために血だらけになりながら若者は前に進むのです。

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  兵士に殴られ血だらけになってでも
国の将来のためにデモを続ける若者。
数万人もの市民が集まった
2019年1月末のカラカスのデモにて。

これを見て思ったのですが、日本は平和です。
しかし、日本でもし何かあった時に
「自分の国のために血だらけになっても戦う」という男性がいるかというと、
私は心許ないと思いました。

下の写真も現地の特派員が夜、撮ったものです。
寝静まって人がいなくなった頃に、子供も連れて一家でごみ漁りをしているのです。
こうして必死に命をつなごうとしているのです。
それぐらい、食べ物がないのです。

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  人々が寝静まった頃、
食べられる物をゴミの中から
必死に探し出す家族。
今日の収穫物はどのくらいか。
それに親子の命がかかっている。

下の写真の子は、リュックを背負った子供ですが、
学校に行かずにごみを漁ってその日の家族の食料をまかなっています。

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  学校にも行けずに、
生きるためにゴミを漁る少年。

下の写真の少年は、ゴミ捨て場の大きな箱の中から物を食べながら出てきているところです。
こうするしかない。これが現在のベネズエラの状況なのです。

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  生きるためには、何でもするしかない。

ベネズエラは、今でも原油埋蔵量はサウジアラビアを上回って世界一と言われています。
かつてはそれを元に安定し、豊かであった国であったのですが、
その豊かな資源に胡坐をかいて悪政が続くとこうなってしまうのです。
技術も経営能力もない軍出身者が国営石油会社のトップに座り、
給与も未払いとなったため優秀な技術者はほとんどみな国外に出て行ってしまいました。
石油はあるのにほとんど掘れないという状況になり、
産出量も激減してしまっているのです。
こうして経済が破壊され、一度ハイパーインフレに入ると抜け出すことは至難の業です。
経済が破壊されると、治安も想像を絶するくらい悪化します。

この悲惨な状況は、決して他人事ではないと思います。
日本の借金状況は極めて深刻です。
ですが、異常な金融緩和により日銀が国債を大量に買っているため金利が押さえられ、
深刻さが忘れられているのです。
しかし、専門家はわかっています。
財政学が専門の土居丈朗慶応義塾大学教授は、
2月18日付のブルームバーグのインタビューで、
現在のような財政拡大と日銀による国債の大量購入が続けば、
「1万円札が紙切れになるかもしれない」と述べています。
また、青山学院大学教授の福井義高氏は、
1月29日付産経新聞の正論欄に「本当に国は『借金』があるのか」と題する論考を寄稿しましたが、
そのラストは衝撃的なものでした。
福井氏は、ハイパーインフレは「大増税を通じた財政再建よりも望ましい可能性がある」と述べたうえで、
「それが安倍首相の本心だとしたら、大変な策士だ」という言葉で論考を締めくくっているのです。

私たち日本人は、ハイパーインフレのベネズエラのことを
「こんな異常なことは日本ではあり得ない」などと、
見物気分で眺めていることはできないと思います。
ですから、お互いに心してこのベネズエラ情勢を注視していきたいと思います。
そして、ぜひ4月中旬に発刊する拙著
『国家破産ベネズエラ突撃取材――1000万%のハイパーインフレ』を
お読みいただきたいと思います。