天国と地獄
 

2018年2月26日更新

第49回 雪の温泉宿で思うこと

先日、山形のとある温泉旅館に行ってきました。
準高級旅館で、食事がとても美味しくて
設備も整えられており、
心地良く過ごすことができる旅館です。
一般的にそういう準高級旅館であれば、
それなりに経験のある、
手慣れた仲居さんがいるのが普通だと思うのですが、
その旅館の仲居さんのほとんどは
20代と思われる若い人たちです。
若いですが大変よく教育されていて、
配慮の行き届いたおもてなしをしてくれる、
素晴らしい温泉旅館です。

東京駅から山形新幹線「つばさ」で出発したのですが、
1月末の東京でも大雪が降った直後でしたので、
道中は大変でした。
福島で東北新幹線の「やまびこ」と切り離されて
在来線に入っていくのですが、
福島の平野を突っ切ると右に上がって行って
その後はとんでもない渓谷に入ります。
江戸時代は多分、人も通れなかったでしょうし、
参勤交代もできなかったのではないかと思います。
実際、参勤交代の時は米沢から南に峠を越えて
会津へ抜けていたのです。
サルでも落ちてしまいそうな渓谷に
今はトンネルやコンクリートで道を造り、
そこを山形新幹線が走るのです。

 

 

雪の降り積もる温泉宿で。
寒がりの私が大雪の中でも行きたくなる、
魅力ある温泉です。

(山形にて 2018年1月下旬)

その日は大雪の影響で、多くの列車が運休や遅延になっていました。
車掌さんも「出発しても途中で止まってしまうかもしれない」
と言っていたほどの状況でした。
そのような大雪の中で、しかも険しい山奥を走り抜けたのですから、
よく無事に到着できたと思います。
積もった雪を除雪しながら安全に走れるよう、
皆さんが頑張って下さったのだろうと思います。
旅行者としては、新幹線に乗っていれば車内は暖かいし、
スタッフがワゴンを押して食べ物や飲み物も売りに来てくれます。
この大雪の渓谷を楽々と越えられるなんて、すごい時代になったなぁと思います。

それと同時に、今回数十年ぶりに到来した大寒波についても思いを馳せました。
巷ではよく“温暖化”と言われますが、私は以前から本格的な“氷河期”、
少なくとも“ミニ氷河期”が来るのではないかと拙著等で述べてきました。
実際、それに近い状況になっています。
アメリカでもヨーロッパでも、今までにないような大寒波に見舞われています。
ひょっとすると、10~20年後に地球上にミニ氷河期が来るのではないかと見ています。
今から約400年前のヨーロッパの絵画には、
湖や河が凍ってスケートを楽しんでいる絵があります。
日本でも、江戸時代の初期にミニ氷河期があったという記録があります。
近い将来、それに似たミニ氷河期が来て、
東京でいえば5℃程度気温が下がり、ある程度の寒冷化になるかもしれません。

それはさておき、温泉の話をしたいと思います。
先日NHKのBSプレミアム「温泉大国ニッポン 名人たちの入浴法」で
温泉特集が放送されたのですが、
実は天下を取った徳川家康が湯治のために通ったことから、
今の熱海が温泉場となったという話が残っています。
家康は薬研(やげん)で漢方薬を作るのが趣味で、
医者よりも薬に詳しかったと言われるほど健康に気を使っていたというのは有名な話です。
そして、独自のサプリメントを作って飲んでいたそうです。
そんな家康ですから、温泉が体に良いことを身を持って感じていたのでしょう。

彼は、若い時に奥さんと長男を織田信長に殺されています。
奥さんが武田と通じていて情報を流していたのではないかと疑われ、
長男まで殺されてしまうのです。
長男の信康は本当に優秀で賢く、親にも孝行をするできた人で、
「これ以上の人物はいない」と言われるほどだったそうです。
ですから信長は、「こいつを生かしておくと、将来、徳川に乗っ取られるかもしれない」と恐れ、
それにかこつけて殺してしまうのです。
家康は終生、酒を飲むと「信康が生きていれば…」と悲しみ、泣いていたといわれます。

その頃の家康は、当時天下人だった秀吉の前では「絶対服従」の態度を示していましたが、
心の奥底では「秀吉は派手なことが好きで、健康にも気を使わずに好き放題やっている。
だから、自分は絶対に秀吉よりも長生きをして、天下を取ってやる!」と思い、
それを目標にしていました。
そのために勉強をしていろいろな知識を得て、医者よりも詳しいと言われるほどになりました。
熱海にもよく行って、温泉に入ったそうです。
温泉というのは温熱効果がありますから、体にはとても良いのです。
4代将軍の家綱は体が弱かったそうですが、
熱海周辺から温泉を樽に詰めて「将軍御用」として東海道を飛脚に走らせ、
運ばせていたらしいのです。それはおそらく、家康の姿を見て学んだのでしょう。

「湯治」というのは、昔から大変健康に良いと
言われています。
私も今回、湯治を兼ねて出版部のスタッフと
合宿をするために山形の温泉に行きました。
会社にいると雑務が山ほどあって、
その上、電話がかかってきたりすると、
仕事を進めたくても中断せざるを得ない状況になります。
温泉合宿に出掛けてしまえば
そのような状況は免れますし、
2泊3日のうちで特に中日は、
朝から晩まで集中して原稿を書いたり
書物を読んだりして1月分位の仕事を
こなすことができるのです。
そして、そんな中でこの宿がどういう工夫をして
繁盛しているのかを観察したり、
スタッフにどういう教育をしているのかを見たりして、
普段とは違う勉強もしています。

この宿の素晴らしいと思う点が、他にもあります。
それは、私は訪れる度に自分の書いた本を
差し上げているのですが、
前に差し上げた本を必ず旅館内の図書館に
入れて下さっているのです。それを見ると、
「この宿の人は、私のことをちゃんと見てくれているのだな、
大切に思ってくれているのだな」と感じて、
「また泊まりに来よう!」という気持ちになります。
このような顧客の心をつかむ対応も、感心します。

 

 

暖かい暖炉の前で勉強したり、
本を読んだり、
スタッフ達と語り合ったりします。
普段持つ事のできない、
特別な時間です。

(山形にて 2018年1月下旬)

というわけで、皆さんもたまには温泉にでも行って、
そこで仕事ややりたいことに集中してみるのも良いと思います。
そして、宿を訪れた時には、どういう経営をしているのか?
従業員に対してどういう教育をしているのか?
などについても注意して観察し参考にして活用していくのは、とても有益なことだと思います。

大雪でしたから帰路も大変でしたが、無事に帰って来ることができました。
今回の大寒波のように、今後は寒冷化も進むかもしれない
という点にも注意して備えておくと良いと思います。