天国と地獄
 

2017年9月5日更新

第32回 厳しい環境を生き抜く

 

アイスランドをヘリコプターで取材して回ったのですが、
本当に何もない国で、ホテルでも驚くべき出来事がありました。
最後に宿泊したホテルは、レイキャビクの中でも一番高級なホテルで、
最上階の8部屋だけがスイートルームになっている造りでした。
プライバシーが守られているのか、入り口には看板もありません。
ホテルだという案内も書かれていないし、受付けもなく、
係りの人もいないのです。
仕方なく外から携帯電話で連絡をしたところ、
建物の中から人が迎えに来てくれて、やっとキーをもらえました。

それから部屋に向かうエレベーターに乗ったのですが、
エレベーターの中も何も書かれていないのです。
20階建てのホテルなのに、階数の案内表示もないのです。
都心にあるホテルですが、土日だったせいなのか、
周りには人が誰もいませんでした。
観光地なので街の中心部に行けば人はたくさんいますが、
少し離れた場所にはほとんどいないのです。
しかも、私の部屋から見えた景色というのは、
道路を挟んですぐそこに広大な海があって、
その先の対岸には左側にレイキャビク中心部に建つビルが見えました。
ビルと言っても高いビルではありません。
そして右側の奥には壮大な崖の山々が見えて、
それは距離感が掴めないほど広大で、
普通の都会のニューヨーク・ロンドン・東京とはまったく違う雰囲気でした。
真下には、1986年にレーガン大統領とゴルバチョフ書記長が
米ソ首脳会談を行なった「ホフディ・ハウス」がありました。

朝、ウォーキングをしていても、真夏なのに気温が8℃位しかなくて、
風が吹くと寒さで耐えられないほどでした。
冬用の一番厚いウォーキングウェアを着て、
その上に分厚いジャケットをはおり、
マフラーを2枚重ねにしてホカロンを5個持って、
やっと生きていられると思うほど寒かったのです。

 
 

夏でも溶けない雪の上で。
寒がりには厳しい国です


 

今回、アイスランドに行ってみてつくづくわかったことは、
人間というのは現代的な生活をしているのはせいぜいここ1世紀位で、
大昔は自然の中でマンモスを追いかけて生きていたわけで、
アイスランド自体も1000年位前にバイキングがやってくるまでは
人も住んでいない土地だったということです。
日本のテレビ番組のドキュメンタリーにもありましたが、
アイスランドにはつい最近までほとんど食べ物がありませんでした。
そのため、男たちが深海ザメを捕りに命がけで漁に出ていくのです。
サメとの戦いで腕が1本ないなどという人はザラで、
海に落ち命を落とす人も多く、50歳位までに半数の男性が亡くなったそうです。
そんな思いをしてやっと捕ったサメですが、
私たちには臭くて食べられないそうです。
堤真一さんもドキュメンタリー番組の中で、
「臭くて気持ち悪くて食べられない」と言っていました。
でも、そういう命がけの生活があって、人間は生きてこられたわけです。
今はこの地にも世界中から飛行機で物資が運ばれて来るし、
地熱発電でビニールハウスを作ってその中で野菜を育てているので
野菜も収穫できていますが、昔は野菜も採れませんでした。
そういう過酷な状況の中で、バイキングの子孫たちは生きてきたわけです。

ラキ火山が噴火した時、アイスランドの人口は5万人しかいませんでした。
家畜が全滅し、1万人が餓死しました。
逆に言えば4万人も生き残ったわけですが、
食うや食わずの時代を過ごしてきたのです。
その時、火山は約30㎞に亘って徐々に噴火していきました。
数百メートルの高さまで火柱が上がって、オレンジ色に光り輝きながら、
まるで壁のようにどんどん広がって行きました。
その光景を見た人たちは、
「これはきっとキリスト教でいう“最後の審判”で、
人類の終わりにちがいない」と思ったと言われています。

その後、火山灰が空に吹き上げ、
昼なのに真っ暗という状況の中で彼らは生き残ってきました。
私たち日本人も同じく火山国に住んでいて
地震は起こるけれども、この状況に比べればまだ恵まれていると思いました。

 
 

まるで月か火星かと思われるような
噴火口群
ヘビのように見えるのは
そこを通る道路

(2017年7月 アイスランドにて)


 

今回のヨーロッパ旅行では、いろいろな場所でさまざまな人に会いましたが、
どの国の人々も人間性はとても良くて優しい人々ばかりでした。
ただやはり、ヨーロッパの中年の女性は強いです。
男性より強くて「ジャバ・ザ・ハット」(第30回コラム参照)を超える妖怪のように、
恐ろしいほどたくましい女性がたくさんいました。
もちろん、優しい女性もたくさんいましたよ。
ここアイスランドにしても、火山で氷河しかない島で生き残ってきたわけですから、
人々が強く、たくましくなるのもわかります。
いろいろな国を訪れていろいろな人や物を見るのは、とても面白いことです。

帰りの飛行機はアイスランド航空を利用してフランクフルトまで行き、
そこから乗り継ぎ便まで8時間待ち時間という不便なスケジュールでしたが、
最後に日本の航空会社ANAの機内で食事を堪能して、
「やっと日本に帰るのだな」としみじみ感じながら帰国しました。

アイスランドから日本までは24時間かかりました。
時差も9時間ありますので、かなりきついです。
日本との時差はポーランドとの間で7時間、
イギリスとは8時間あります。
9月にはオーロラを見るツアーで
日本からアイスランドへの直行便が出ると聞いています。
9月は相当気温が低くて寒いので、オーロラをきれいに見ることができるでしょう。
私が訪れた7月の頭は、白夜に近い状況でした。
夜中でも暗くなりません。
そうそう、アイスランドは温泉も楽しめますので、
次回は温泉の話をしましょう。
オーロラツアーもありますし、
皆さんもぜひ一度、アイスランドに行ってみて頂きたいと思います。

浅井隆